湊かなえさんの『告白』すごく面白かったので、ほかの人の考察や感想も知りたい!
この記事は上記のような要望に応えます!
今回は、湊かなえさんのデビュー作で、2009年本屋大賞を受賞した『告白』を読んでみました。
とても面白い作品でした。大ベストセラーになっているのもうなずけます。
ただ、作中に不可解な点がたくさんありませんでしたか。
後ほどお話しますが、実は、登場人物が本当のことを話しているとは限らないようなのです。
今回は、その不可解な点を解き明かしてみたいと思います。
内容は以下のとおり。
- 湊さんにまんまとやられていた件
- 告白者たちがついた嘘・矛盾
- 直哉という唯一の救い
友達とおしゃべりするような感覚で気軽に読んでいただき、楽しい時間を過ごしてもらえれば嬉しいです。
【湊 かなえ『告白』考察】こんな話でした
「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです」
我が子を校内で亡くした中学校の女性教師によるホームルームでの告白から、この物語は始まる。
語り手が「級友」「犯人」「犯人の家族」と次々と変わり、次第に事件の全体像が浮き彫りにされていく。
衝撃的なラストを巡り物議を醸した、デビュー作にして、第6回本屋大賞受賞のベストセラーが遂に文庫化!“特別収録”中島哲也監督インタビュー『「告白」映画化によせて』。
引用元:双葉文庫『告白』裏表紙の内容紹介
【湊 かなえ『告白』考察】湊さんにまんまとやられた
最初は何も疑うことなく、最後まで読み終えました。
しかし、あとがきを読むと、映画版の監督をつとめた中島哲也監督が「登場人物たちが嘘をついている」と話しているではないですか。
さらに、ほかの人の考察記事でも「小説では、登場人物が本当のことを話しているとは限らない」と語られていました。
上記の意見を見て「あいつらの告白、全部信用して読んでた!湊さんにまんまとやられた!」と自分が告白者たちに裏切られていることに気づきました。
その後改めて読み直してみると、たしかにたくさんの不可解な点があるんです。
次の見出しで、特に不可解だった点についてお話しします。
【湊 かなえ『告白』考察】告白者たちの嘘・矛盾を暴く
読み直す中で、登場人物の告白にはたくさんの不可解な点がありました。
中でも特に不可解で、おそらく嘘をついているなと思ったのは以下の4つです。
- 森口先生はウェルテルと面識はない
- 修哉は母親のいる大学に行っていない
- 美月には捜索願が出されている
- 森口先生は修哉の母親に会いに行ってない
1つずつ説明します。
森口先生はウェルテルと面識はない
森口先生は、ウェルテルを前任の学校で1年教えたことがあると話していましたが、この告白は嘘でウェルテルと面識はなかったと思います。
理由は以下の2点から推察できます。
1.森口先生だけが、ウェルテルは桜宮先生の教え子と話している
最終章で森口先生は、ウェルテルは桜宮先生の教え子だと話していました。
しかし、森口先生以外、ウェルテルが桜宮先生の教え子だと話している人はいません。
もしウェルテルが「自分は桜宮先生の教え子だ」と話していれば、美月や修哉は自らの告白の中で話しているはずです。
HIVに感染している桜宮先生の血液を、修哉と直樹が飲んだ牛乳の中に混入したという、森口先生の告白を聞いているのですから。
ということは、ウェルテルは自分が桜宮先生の教え子とは言っていないと考えられます。
ウェルテルが桜ノ宮先生の教え子という話は、ウェルテルと面識があることをでっちあげるために、森口先生がついた嘘ではないでしょうか。
2.美月の告白をなぞったような話をしている
最終章での森口先生の語りには、美月の告白をなぞっているような箇所がありました。
―中学生の頃の僕は、決してまじめとはいえない生徒だった。
引用元:双葉文庫『告白』66P 美月の告白文内 ウェルテルの発言
親に隠れてタバコを吸ったり、嫌いな先生の車にいたずらしたり……。
(前略)桜宮が中学時代、親に隠れて煙草を吸っていた、と聞けば、自分もむせ返りながら煙草を吸ってみたり、嫌いな先生の車にいたずらをしていたと聞けば、自分も同じことをしてみたりと、おかしな問題行動を起こすようなところがありました。
引用元:双葉文庫『告白』293P 最終章 森口先生の語り
森口先生はウェルテルのことを知らないため、美月の告白を参考に知ったかぶりをしたのではないでしょうか。
以上のことから仮説を立ててみました。
美月の告白は文芸誌に掲載された。
↓
森口先生は、文芸誌に掲載された美月の告白を見てウェルテルの存在を知った。
↓
森口先生は「ウェルテルと面識があり、実はウェルテルを裏であやつっていた」という作り話を修哉にすることで、精神的恐怖を与えようとした。
修哉は母親がいる大学に行っていない
修哉が母親に会いに、母親が勤める大学にいったという話も嘘だと思います。
母親の再婚相手に関する記載が、あまりにも不自然につじつまが合っているからです。
不自然さは、以下の場面から推察することができます。
しばらくすると、母親がいた研究室の教授だという男が、彼女に大学に戻るように説得しにきた。
引用元:双葉文庫『告白』236P 修哉の告白
入賞者には、それぞれ審査員が席順に一人ずつコメントしていったのだが、自分のコメントをしてくれたのは、例の瀬口という教授だったのだから。
引用元:双葉文庫『告白』248P 修哉の告白
そして、なんと彼は、母親を大学に連れ戻しに来た人物でもあったのだ。
そこで、意外な人物と再会を果たしたのだ。「全国中高生科学工作展」で発明品の講評をしてくれた瀬口教授だった。
引用元:双葉文庫『告白』278P 修哉の告白
驚いたことに、教授も覚えていてくれたらしく、先に声をかけられた。
瀬口教授と女の人が二人で写っている。背景は、ヨーロッパ、ドイツあたりの古城だろうか。
引用元:双葉文庫『告白』280P 修哉の告白
教授に寄り添い、穏やかに微笑んでいる女性。
どう見ても、―母親だった。
母親を説得しに来た男性がたまたま「全国中高生科学工作展」審査員を務めていて、大学に行ったらたまたま出くわし声をかけられ、しかも母親の再婚相手だった。
どうも話が出来すぎていて、信じられません。
僕は、修哉が自らを悲劇の主人公に仕立て上げるためについた嘘ではないかと考えています。
美月には捜索願が出されている
修哉の告白の中で、美月を殺害した後、1週間誰も捜しにこなかったとの話がありました。
死体は、「研究室」の大型冷蔵庫の中にしまってある。一週間も戻らないのに誰も捜しにきてくれない可哀想な彼女を(後略)
引用元:双葉文庫『告白』277P 修哉の告白
上記の告白も嘘だと思います。
中学生の女の子が一週間も家に帰らなければ、親は当然心配し探し回るはずです。
また、美月が家族と上手くいってなかったという話もありませんでした。
おそらく捜索願が出されており、修哉のところにも連絡があったのに、知らないふりをしたのでしょう。
修哉は、美月を殺してしまった寂しさから、美月を自分と同じ可哀想な存在にしたかったのではないでしょうか。
森口先生は修哉の母親に会いに行ってない
森口先生は修哉の母親に会いに行ったと話していましたが、作中の時間的、常識的な視点から考えると、不自然さが目立ちます。
作中で以下の告白がありました。
大学まで、在来線と新幹線と地下鉄を乗り継いで四時間。
引用元:双葉文庫『告白』278P 修哉の告白
八月三十一日、今日、学校に爆弾を仕掛けた。
引用元:双葉文庫『告白』231P 修哉の告白
今朝方、私が解除させていただきました。
引用元:双葉文庫『告白』287P 最終章 森口先生の語り
あなたのラブレターを読み、爆弾を解除した後、私はある人物に会いに行きました。
引用元:双葉文庫『告白』299P 最終章 森口先生の語り
上記の告白を整理すると以下のようになります。
8月31日に修哉が学校に爆弾を仕掛ける。
↓
9月1日の朝方(4~5時頃?)森口先生が学校に行き、爆弾を解除。
↓
9月1日の朝方(4~5時頃?)森口先生が修哉の母親がいる大学へ向かう。(新幹線をつかっても4時間はかかる)
↓
9月1日の朝(8~9時頃?)大学で修哉の母親に会う。
↓
9月1日の朝(9時すぎ頃?)修哉に電話をかける。
森口先生の移動は不可能ではありませんが、かなりタイトなスケジュールになっています。
爆弾の仕組みを把握し、解除するにも時間がかかるでしょう。
また、朝早く大学に行き、運よく修哉の母親に会えて話をしたというのも疑わしいです。
修哉の母親からすれば、朝早く知らない人が職場に訪ねてきて、生き別れた息子の担任だったと名乗ってきたことになります。
修哉の母親は、はいはいと素直に応対するでしょうか。
不自然きわまりない話です。
やはり、森口先生は修哉の母親に会っていないと考えるのが自然であるように思います。
Next≫ 直樹という唯一の救い
【湊 かなえ『告白』考察】直樹という唯一の救い
この小説は暗く、重く、登場人物も闇深い人間がたくさん出てきます。
「イヤミスの女王」といわれる湊さんの作品だけあって、後味も最高に悪かったです。(それが醍醐味ですが)
そんな中、直樹は作中で唯一希望を持たせてくれる存在になっていました。
この唯一の希望は、直樹の母親を思う気持ちや、犯した罪への向き合い方から感じることができます。
母親を思う気持ちに胸が締めつけられた
直樹の母親を思う気持ちは純粋で、読んでいる間ずっと胸を締めつけられました。
特に以下の描写は本当に切なくなります。
母親の手作り料理やお菓子が大好きで、友達に自慢するくらい誇りに思っている
ねえ、渡辺くん。今度、うちに遊びに来てよ。母さんがぜひにってさ。
引用元:双葉文庫『告白』189P 修哉の告白文中 直樹の発言
ケーキを焼いてくれるって。
(中略)
ケーキはそのへんで売ってるのより、おいしいと思うから。
そうだ、今日の打ち上げにしようよ。
よし、そうとなったら、ものすごいの焼いてもらわなきゃ。
最後まで自分を見捨てなかった母親に罪悪感を感じている
化粧をせずに外に出た母さんを見たのは初めてだ。
引用元:双葉文庫『告白』221~222P 直樹の告白
(中略)
両手に二つずつコンビニのビニール袋を持っているから、鼻の頭にういた汗をぬぐうこともできない。
僕はこぼれおちそうになる涙を必死でこらえた。
僕は母さんのことを誤解していた。
自分の理想に反した子供なんて、受け入れてくれないと思っていた。
でも、母さんは、ゾンビになってしまった僕ですら、受け入れてくれている。
母親が死に混乱状態になっても、母親と母親の手料理だけは忘れなかった
(前略)仮に、僕が本当に「直くん」と呼ばれる人物なのだとしたら、悪い夢というのはあの映像のことではないかと思う。
引用元:双葉文庫『告白』228P 直樹の告白
だとすればこれは夢なのか……。
それなら、はやく目を覚まして、母さんの作ったベーコン入りのスクランブルエッグを食べて、学校へ行こう。
マザコン気質かもしれませんが、作中の他の出来事がろくでもないだけに、直樹の純粋さがより際立つ描写です。
罪をつぐなう覚悟をした
直樹は森口先生の子供を殺し、復讐されたことに苦しんだ末に、母親が待ってくれるならと罪をつぐなう覚悟をしました。
直樹の母親に対する思いと罪に向き合う覚悟だけは「嘘の告白」であってほしくない。(切実)
もし嘘なら、もうこの作品においてとりつく島はなく、まるで暗い海に放り出され遭難しているような絶望感だけが残ってしまいます。
【湊 かなえ『告白』考察】まとめ
今回は湊かなえさんの『告白』の考察を語ってみました。
この作品は「イヤミス」でありながら、登場人物が嘘の告白を見破る体験型ミステリーのような要素を合わせ持った作品でした。
物語の真実は明らかにされておらず、読む人によって解釈が変わるため、読んだ人同士で考察を語り合えるところも面白い点です。
また、あなたが発見した「嘘の告白」について、X(旧Twitter)で教えていただけると嬉しいです!
ではまた!
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楽しい記事になっていますので、よかったら見ていってください。
気軽にリラックスしてみれるよ!