平野啓一郎/小説『ある男』の感想|男が救われた本当の理由とは?

平野啓一郎さんの小説『ある男』、味わい深い作品だったなー。
他の人の感想も見て、さらに作品の世界を味わいたい。

この記事は上記の要望にこたえます!

こんにちは。当ブログ『楽本カフェ』のマスターとおるです。

今回は平野啓一郎さんの小説『ある男』の感想です。

本作は「逃れられない運命」や「人を愛すること」といったテーマに、現代日本の根深い社会問題が絡んでおり、考えさせられつつ、深く心に残る作品でした。

ところで、原誠はなぜ最後に幸せな日々を送れたのでしょうか。

本記事ではその理由について、解き明かしてみました。

また、作中で死刑囚の権利はく奪をさけんでいた男がいたのを覚えていましたよね。

一見正義漢のよう見えますが、実は彼の主張にはある致命的な欠点があるんです。

その致命的欠点についても、語ってみたいと思います。

この記事でわかること
  • 原誠が最後に救われた本当の理由とは
  • 死刑囚の権利はく奪をさけんだ人に欠けている視点
  • カタカナ表現にクセがある
  • 原作ファンも楽しめる!『ある男』映画版

友達とおしゃべりするような感覚で気軽に読んでいただき、楽しい時間を過ごしてもらえれば嬉しいです。

目次

【小説『ある男』感想】こんな話でした

弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。

宮崎に住んでいる里枝には2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。

長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。

ある日突然、「大祐」は、事故で命を落とす。悲しみにうちひしがれた一家に「大祐」が全くの別人だったという衝撃の事実がもたらされる……。

里枝が頼れるのは、弁護士の城戸だけだった。人はなぜ人を愛するのか。

幼少期に深い傷を背負っても、人は愛にたどりつけるのか。「大祐」の人生を探るうちに、過去を変えて生きる男たちの姿が浮かびあがる。

人間存在の根源と、この世界の真実に触れる文学作品。

引用元:ある男』特設サイト – 平野啓一郎

【小説『ある男』感想】人を愛せたことが原誠を救った

死刑囚の息子であるという運命に苦しみ、自身を否定してきた原誠。

誠が自分を肯定できるようになったのは、周りの人に愛されたからではなく、里枝や子供たちを愛せたからではないでしょうか。

誠はボクシングをやっていた頃、周りの人たちから愛されていたにもかかわらず、ずっと苦しみ続けていました。

しかし、里枝と出会って結婚し、家族と過ごした3年9カ月は穏やかに暮らしていました。

「自分もいつか父親のように人殺しになってしまうんじゃないか」

という思いから、里枝や子供たちを愛したことで、

「自分はこんなにも人を愛し大切にできる人間なんだ。父親とは違う人間なんだ」

と自分を肯定できるようになった心境の変化があったと推察できます。

人を好きになり愛を与えられたことが、誠自身を救うことにもなったといえるのではないでしょうか。

マスターとおる

よく「自分を好きになれないと人は愛せない」と言いますが、必ずしもそうではないのかもしれませんね。

Next≫ 死刑囚の権利はく奪をさけんだ人が見えていないもの

【小説『ある男』感想】死刑囚の権利はく奪をさけんだ人に欠けている視点

死刑囚が描いた絵の展覧会の場面で、展覧会の開催自体に異議を唱えた川村修一という男性作家がいました。

川村は死刑囚には絵を描く権利などなく、即刻死刑にすべきだと叫んでいましたが、川村には見えてない視点があります。

それは加害者の家族のことです。

作中で川村は、被害者とその家族、加害者については話していますが、加害者家族については一切話していません。

川村は激しく感情的に死刑囚を断罪し、生きる権利をはく奪せよと訴えていました。

しかし、感情的に断罪すればするほど、原誠のような加害者家族が苦しみ、世間からも感情的な目で見られてしまいます。

川村は被害者家族の気持ちを考えるのであれば、加害者家族のことも考えるべきです。

特定の立場から一方的な発言をする人には、見えていない視点があり、多くの人たちが苦しむことになりかねません。

作中に出てくる在日朝鮮人に対するヘイトスピーチの問題も同じことがいえます。

Next≫ カタカナ表現にクセがある!

【小説『ある男』感想】カタカナ表現にクセがある

作品の内容とは直接関係ありませんが、文中のカタカナ表現のクセが気になりました。

例えば以下の文章です。

(前略)レイ・チャールズの古いライヴアルバムが流れていた。

引用元:文春文庫『ある男』63P

城戸は、毎日、颯太が自宅のリヴィングやキッチンをウロついている様子を見ているので、(後略)

引用元:文春文庫『ある男』148P

トーク・イヴェントでは、キュレーションを務めた美術批評家が、(後略)

引用元:文春文庫『ある男』209P

(前略)その小学六年生の一人息子を殺害しているらしいが、ナイーヴなことは百も承知で(後略)

引用元:文春文庫『ある男』216P

(前略)いずれにせよ、国家が、殺人という悪に対して、同じレヴェルまで倫理観を落としてはいけない(後略)

引用元:文春文庫『ある男』266P

未来のヴァリエーションって、きっと、無限にあるんでしょう。(後略)

引用元:文春文庫『ある男』313P

平野さんは「V」の音を「ブ」ではなく「ヴ」って言いたい人なんですね。

小説を読み進める中でカタカナ表現の箇所にくると、帰国子女のように急に英語的な発音になるので笑いそうになりました。

帰国子女

未来のヴァリエーション!って

マスターとおる

決して平野さんをディスってるわけではないですよ!作品は面白かったですし!

Next≫ 原作好きでも楽しめる!映画版の見どころをご紹介!

【小説『ある男』感想】原作ファンでも楽しめる!『ある男』映画版

映画版は面白いの?
原作好きが観てもがっかりせず楽しめる内容なのかな?

はい、楽しめます!

僕は先日映画版を観てきましたので、原作を読んだ人でも楽しめる見どころをご紹介します。

内容は以下のとおり。

CHECK
    • 物語の本すじに集中できる構成
    • 役者の演技がもれなく上手
    • 最後は背筋がぞわっとする終わり方

まだ、観ていないという方は参考にしてみてください。

物語の本すじに集中できる構成

上映時間の枠に物語をおさめるため、枝葉がカットされ、きれいにまとまった構成になっています。

戸籍を変えてまで自身の運命から逃れたい人(原誠や谷口大祐)とその家族や恋人を、城戸が追っていくという本すじは、原作に忠実に描かれています。

一方で香織との不仲や在日朝鮮人問題、東日本大震災、死刑制度の是非といった枝葉はかなりカットされていました。

本すじの部分が強調され、複雑な人間関係もていねいに分かりやすく描かれているので、この映画のテーマである「逃れられない運命」「人を愛すること」に集中できる作品に仕上がっています。

役者の名演によって再現された作品世界

子役も含め役者さんはもれなく演技が上手なので、物語の世界にすっと入り込めます。

注目は、戸籍交換を仲介したとされる小見浦を演じる、柄本明さんの怪演です。

ファンタジー系映画に出てくる魔物みたいな雰囲気をかもし出していました。笑

城戸の弁護士事務所のパートナー、中北を演じる小藪千豊さんのコミカルな演技も良かったです。

重い展開が続く本作に少し笑いが入ることで、暗すぎない映画に仕上がっていましたね。

実力のある役者さんたちによって再現された『ある男』の得も言われぬ世界をリアルに体験できます。

参考:映画『ある男』公式サイト

最後は背筋がぞわっとする終わり方

物語の最後は背筋がぞわっとなるような、少し怖い終わり方になっています。

原作の終盤で、城戸が妻・香織のスマホに同僚男性から親密なラインが届いたのを見てしまい、見て見ぬふりをする場面がありました。

映画版でもこの場面は描かれているのですが、原作とは違い、城戸の中で何やら不穏な空気が漂うような終わり方になっています。

この場面の後、ラストシーン(小説冒頭の城戸とバーの客が語り合うシーン)につながるのですが、意味深で謎めいた終わり方をしており、少し怖い印象でした。

原作とはひと味違う映画版の終わり方。ぜひ体験してみてください。

\参考:映画『ある男』特典映像/

【小説『ある男』感想】まとめ

今回は『ある男』の感想を語ってみました。

本作は人を愛することや様々な社会問題について考えさせられ、人としての深みをつくれた作品でした。

平野さんの作品は今回初めて読みましたが、クセ強めのカタカナ表現を使うんですね。笑

ではまた!

X(旧Twitter)でも様々な作品の感想や紹介をつぶやいていますので、よかったらチェックしてみてください。

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楽しい記事になっていますので、よかったら見ていってください。

りらっくすねこ

気軽にリラックスしてみれるよ!

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